太田泰友の Book Arts Journey

「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020」に寄せて—— 太田泰友の Book Arts Journey(2)

2020年2月21日から始まった、「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020」は、新型コロナウイルス COVID-19 の感染拡大の状況を鑑みて、3月2日から臨時休館となった。オープニング・レセプションの時には、既に COVID-19 の広がりは世間を賑わせていて、レセプションにおいても飲食物の提供が中止されたし、マスク姿の人も銀座もいつもより静かになっていたような状況で、急遽短縮されて10日間となった会期は、実質的には10日よりも短く感じるものになってしまった。

こういう状況の中で、臨時休館という判断は仕方がないものだが、始まった展覧会がすぐに閉じてしまったということ自体は、残念であることに違いない。実際に僕の周りにも、展覧会を訪れる予定だったのに、臨時休館によって実現できなかった方々がいるし、短い会期の中でご覧いただけた方々には、もっと多くの人に観てもらいたかったと言ってくださる方も多かった。

こういう、少なくとも僕にとっては、最早「幻の展覧会」とも呼べる展覧会だからこそ、不要不急の外出が自粛される今だからこそ、作品を展示するのとは別の方法で、この展覧会に込めた思いを記しておきたい。

会期中に足を運んでいただける人が、予定していたよりもおそらく少なかったはずなので、展覧会に寄せての作家コメントとして提出した文章をそのまま転載する。

自分らしい本の作り方を意識し始めた頃に、ウィリアム・モリス『理想の書物』(筑摩書房、2006年)を読んで、本の世界に心酔した。「〈芸術〉の最も重要な産物でありかつ最も望まれるべきものは何かと問われたならば、私は〈美しい家〉と答えよう。さらに、その次に重要な産物、その次に望まれるべきものは何かと問われたならば、〈美しい書物〉と答えよう」(訳:川端康雄)モリスはこのように〈家〉と〈書物〉を並べた。

本と建築には共通点がある。本にまつわる名詞には、「扉」や「柱」と呼ばれるものがあり、動線をコントロールしながらレイアウトを作り込んでいく点もよく似ている。人間よりも小さく、手で持つことができるのが本で、人間よりも大きく、身体ごと入ることができるのが建築だ。人間と比べた時のサイズ感に違いがある。大きさは異なるが、共に宇宙だ。

2019年以降、私が制作するブックアートに、手に収まらないものが出てきている。

太田泰友「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020」作家コメントより

2019年11月から、Brillia ART AWARD 2019 の入選作品として、東京・八重洲の東京建物八重洲ビルで展示をした作品「Book Para-Site」は、先のモリスの言葉をずっと意識してきた僕が、初めて〈本〉と〈建築〉の境界をスケール感で見つめてみたものだ。

太田泰友「Book Para-Site」2019年

続く 2020年1月に開催された、上野の森美術館ギャラリーでの展覧会「Brillia Culture Spice」では、八重洲での「Book Para-Site」を経ての作品として、「Book Para-Site 2―betwixt boards」を展示した。

太田泰友「Book Para-Site 2—betwixt boards」2020年

この展覧会では、展示台がもともと決められていたことから、展示台に寄生する本を考えた。それで、八重洲に展示した「Book Para-Site」のように、明らかに人間の体よりも大きな本と、手に収まるような本との間のスケール感の作品に挑戦することになった。(展示台の大きさは、450 × 450 × 950 mm)

このサイズの作品を制作する過程で、想像していなかった新しい発見があった。

人間よりも明らかに大きな「Book Para-Site」を制作するときの気持ちは、多くの人が想像するであろう、そして僕も想像していた〈建てる〉感覚だ。(※感覚は想像通りでも、大変さは想像以上だった)

それが、「Book Para-Site 2―betwixt boards」を制作する中の、表紙の革を貼り込んでいく作業で、人に上着を着せる感覚を覚えたのだ。両手を目一杯広げて、右手と左手にそれぞれ革を掴み、本の周りに腕をまわすようにした動きが、まさにそれだった。

その感覚が僕には新鮮で、スケール感を変えていった時の境界を追究していた〈本〉と〈建築〉という分け方は、もう少し細かく分けていくと、間に〈人間〉が入るように感じられた。これが「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020」で発表した新作の Book Para-Site シリーズにつながっていった。

そして、このような機会なので付け加えると、僕のスケッチブックには、家具に本が寄生した「ブック・パラサイト」という作品の構想が、2016年に描かれている。家具のスケール感から始まった「ブック・パラサイト」が、3年後に建築、4年後に展示台と経て、今回の展覧会でまた家具へと実現されていったことを、自分のことでありながら興味深く思う。

奇しくも、第92回アカデミー賞で映画「パラサイト 半地下の家族」が話題になったタイミングが、僕の「Book Para-Site」シリーズが広がっていくタイミングと重なった。不思議な縁でブックアートもつながっていくものだ。

またどこかの機会で、今回の新作をご覧いただける縁がありますように。

「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020」© POLA MUSEUM ANNEX

展覧会に関する記事はこちら。
太田泰友が出展する「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020 ― 真正と発気 ―」が始まりました。
【お知らせ】「ポーラ ミュージアム アネックス展 2020 —真正と発気—」は3月2日(月)から臨時休業となります。

作品に関する詳細記事はこちら。
 東京・八重洲に巨大な本が出現!太田泰友 “Book Para-Site” 公開
☞ 【映像】太田泰友の作品 “Book Para-Site” の動画を公開しました。
「Brillia Culture Spice」オープニングイベントで新作 “Book Para-Site 2—betwixt boards” を発表しました。
【スタッフKの作品紹介】“Book Para-Site” と “Book Para-Site 2―betwixt boards” についてのお話。

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