OTAブックラボ

OTAブックラボ 第0期のこれまでと第1期メンバーの募集について—— 太田泰友の Book Arts Journey(3)

2018年10月にスタートした OTAブックラボ 第0期。
メンバーそれぞれが本を作り、その過程をラボの中で共有しながら、本づくりを追究することを目的に立ち上げました。

メンバーを集めてラボ形式にしたのは、大きく分けて2つの理由があってのことです。
本には様々な構成要素があり、その構成要素が多様に、複雑に、強固に結びついて作品になっていきます。いろいろな専門を持ったいろいろなメンバーが集まって、より多角的に本を追究したいということがまず一つ。ブックアートでも、作家によってそれぞれ得意な切り口があります。自分が思いも寄らない角度からコメントをもらうことも、自分とは全然違う切り口の作品にコメントをすることも、一人で制作しているだけでは得られない経験だと思います。

もう一つは、自分の制作と並行して進むメンバーの制作を継続して見ていくと、その作品の意図を理解した上で、制作途中に起きた問題や、それを解決して昇華していくこと、技術的なことなどを、メンバーが5人いたら5倍の量を経験できるということです。

これは、僕がドイツの大学で経験して、身を以てこのメリットを感じました。自分の作品制作として得られることはたくさんあるし、それが大切なことは疑いようがありませんが、自分が経験して知ったことや学んだことを、他の人の制作に当てはめて、「こうしたらもっと良くなるのではないか、自分だったらこうする」と考えることは、日々のトレーニングとして重要だと感じます。自分の作品と比べて純度は下がるかもしれませんが、効率よく、数を当たれるというイメージです。

こういうことを念頭に、あえて「第0期」と謳ってメンバーを募集しました。経験問わず、参加申し込みされた方を全員受け入れました。なぜ全員受け入れたかというと、参加メンバーを制限する基準を持っていなかったからです。もっと言うと、僕が限界を決めるのではなく、いろいろな人が集まる中で多様な、予想を超えたセッションが起きてほしいという考えがあったからです。僕がラボの中で追究したい本の新しい可能性は、これまでの基準で経験を測れるようなものではありません。不足している経験は補えば良い。補おうとしても身につけられないような個性をそれぞれの武器にすることこそが、これからの本づくりに大切なこと。その武器を見つけて、磨いて、際立たせる方法を追究していく場所がラボだと考えています。

だから、第0期が始まる段階で、僕がメンバーを選ぶ意義はないと考えました。

この判断によって、いろいろなことが起きました。
募集をして、即、申し込みをしたメンバーもいれば、ラボの活動が始まる2時間前にアトリエで相談をして、そのまま活動に合流したメンバーもいます。北は北海道、(東京からの視点なので)西は福岡まで問い合わせがあり、住んでいる場所からの距離や、活動期間中の引越しを見据えての相談もありました。これまでの経験を心配していたり、年齢を気にしていることもありました。印象的だったのは、「第0期だからこそ挑みたい」と言ってくれるメンバーが多かったことです。

第0期のスタート時、メンバーは18人(数え方によって若干の前後あり)。予期せぬ、止むを得ない事情で残念ながら途中で脱退したメンバーが少し。それから堂々と正直に言うと、無言でいなくなったメンバーが数名、何かを言い残して脱退していったメンバーが少し、最後のやり取りとしてはまだ活動している形だが、その後連絡がないので実質活動を共にしていないメンバーが数名います(※個人が特定されない範囲に留めています。)

無言でいなくなったメンバーと、音信不通のメンバーについて、基本的に僕から追いかけることはしていません。それは、スタート時、全員を受け入れたから当然起こることだと考えたからです。もしかしたら、その本人がこれを読んでいることもあるかもしれませんが、ラボの活動をする中で、僕が当初から「このメンバーは活動が続かないかもな……」と感じていたこともあります。ラボの趣旨に合う範囲で、全メンバーにとって意義のあるラボにしようと努めましたが、及ばないことがあったのは事実です。しかしその中から、「こういう理由で、ラボの活動に合わないことがある」という経験を得ました。反対に、最初はなかなか軌道に乗らなかったのに、ある瞬間から「ラボの活動でこんなに作品が深化していくことがある」ということも経験しました。もちろんメンバーの努力があってのことですが、それは本当に胸が熱くなるような貴重な体験です。

第0期は、ラボの共通テーマを設けて、そのテーマのもとメンバーそれぞれが作品を制作しました。テーマは、今後発表する機会があると思うので、ここではあえて書きません。隠しているつもりはなかったので、もしかしたら SNS などでぽろっと出ているかもしれません。

ラボの活動は、月に一度メンバーが集まって、制作の進捗を発表する「ラボミーティング」がベースになります。第0期は、3チームに分けて開催しました。1人につき15分と謳っていましたが、収まったことはなかったと思います。1ヶ月の間に作ったもの、試してみたものを持ってきて、どんなことを考えたか、これからどうしていくのか発表し、それに対して僕やラボメンバーが意見や質問をします。

ラボミーティングでは、時間に限りがあるため、そこに収まらない量の問題点があったり、より細部を見ていく必要があったり、あるいはミーティングよりも頻度を上げて話をしたい場合に、ラボミーティングとは別の日時に、その都度僕が個人対応する「個人ミーティング」を開催しました。内容として多かったのは、デザインのより細かな部分や、本の構造を作る部分です。制作を進めるにあたって、いろいろな問題が具体的につかめてきた後半の時期に、全体的に開催頻度が増えました。

技術的なものを扱うワークショップも開催しました。第0期がスタートして数ヶ月は、運営側でプログラムした製本のワークショップを開催しましたが、ラボの進度やメンバーの予定をうまく揃えていくのが思った以上に難しく、メンバー個人個人に、必要に応じたワークショップを開催するのが現実的だと判断して、ラボ全体に合わせた企画のワークショップは断念しました。ただ、第0期の活動を続ける中で、このワークショップの必要性を僕も感じましたし、メンバーも感じていたようで、第1期に向けてこの部分をパワーアップしています。

作品完成に近づいていく時期には、ゲスト講師をお呼びして印刷特別講義を開きました。充実した内容で、メンバーにも好評。こういった内容のワークショップを第1期以降にも企画していくことの重要性を感じました。

第0期の活動期間は1年を計画していて、本来であれば2019年9月に第0期を締めくくる予定でしたが、ラボ内での最終発表に向けた最後の最後の時期に、予期せぬ個人的な事情(娘を亡くしました。)で、僕がラボの活動を進められない事態になってしまいました。また、メンバーの作品制作も、もう少し時間があったほうが良いと考えられる状況でもあり(これも僕がもっとうまく進めればよかったわけです!)、ラボ内の最終発表を2019年12月に開催し、ラボから外に向かって発表する場を2020年3月に設けることに決めました。

最終発表までの時間が3ヶ月延びても、これが意外と短い。完成に近いところまで来ているけれども、最後に突き詰めたいところが無限に出てくる。終わりが近づくにつれ、終わりがどんどん遠のいていくような感覚の中、メンバーはそれぞれ大奮闘しました。ラボの中でも、メンバー全員の作品を一番見てきたのは僕です。この最後のブラッシュアップの期間に粘ったメンバーの作品は、一気に何百倍も良くなっていったと自信を持って言えます。

ラボの活動が始まった最初の頃、まだほとんどのメンバーが作品のコンセプトや、素材を集めている時期から、僕は「作品は指数関数的に良くなっていく」とラボの中で話をしていました。最初、あまり見た目には進んでいるように見えない時期の取り組みが充実していれば、ある時期から一気に作品として深みを増していくことを、僕自身の経験としても、ドイツの学生を見てきた経験からも信じてきました。それが、OTAブックラボの中でも、やはり身を以て実感できました。この終盤の時期を経験したメンバーが、次の作品に向かった目標や期待を口にしていたのは、そういうことの現れなのだと思います。

OTAブックラボ 第0期 が始動して、1ヶ月目の頃に「指数関数的」な制作の話をしていた写真が見つかりました。

2020年3月に、ラボの外に向かった発表を設けようとしたことは先述の通りですが、4月に入った今、まだ開催していません。新型コロナウイルスの感染拡大が、1月には少しニュースを見かけるような状況になっていて、2月に入るとかなり身に迫った問題と感じるようになりました。

実は、3月に第0期の作品展示をして、4月から第1期を始めるつもりだったのですが、3月の展示をこの状況で開催するべきか悩みました(2月の話です)。せっかくなら多くの人に第0期の成果を見てほしい。そのためには積極的に呼びかける必要があるけれども、3月に感染がもっと拡大していたら、開催する側も、お越しいただく方々も、お互いが気を遣うような状況になってしまう。触ってもらうことが前提の作品なのに、触ることが危険な状況。小回りが利く規模であるので、機会を改めることに決めました。

そして今、今回の新型コロナウイルス問題は、いつ終息するのかわからない状況です。

ラボの活動の柱であるラボミーティングやワークショップは、近い距離で本を追究する性質があり、今は自分たちのためにも、周りの人たちのためにも、避けるべきものだと考えます。

しかし、やっと動き始めた「ラボ」という、本の新しい活動を無期限に止めることはもったいない。いつかこの問題が落ち着いた時に、また良いスタートを切れるように、いや、もっと充実した本の追求ができるように、今できることを始めていきたいと思います。

OTAブックラボ 第1期を、2020年6月に始動します。

【お知らせ】OTAブックラボ 第1期メンバーを募集します。

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