■ ラボとの縁は偶然のたまもの?
ま: まず、ラボに入ったいきさつを教えてください。
た: 学生の頃から紙や本に興味があり、手づくり本をつくったりしていました。その後「まるみず組」の集中特訓に参加したり、「空想製本屋」に3年ほど通いました。
太田さんを知ったのは、ちょうどインスタグラムを始めたころ。本のかたちをしたアート作品を制作されている方がいると知り、フォローしたんです。インスタグラムで0期生を募集していることを知り、一度アトリエを訪問しました。太田さんと話をして改めて興味が湧き、参加することを決めました。
さ: わたしは、もともとルリユール[*1]という西洋の伝統的な製本を学んでいました。でも、それをずっとやっているイメージがつかなくて迷い始めたんです。この先どうしようかなと、積極的に取り組めないときがあって、ノート的なものをつくってイベントで販売したりしたのですが、やっぱり違うなーと迷っていたときに、たまたまここ( OTA ブックアート武蔵小山アトリエ)で箔押しのワークショップがあることを見つけて、参加したんです。
太田さんという存在やブックアートについて知ったのもこのとき。その1週間後にラボの0期が始まることを知って、気持ちが動いた。
[*1]西欧の伝統的な造本技術で作られた製本工芸
ま: 佐藤さんも0期からのメンバーですが、どうしてルリユールをやろうと思ったのですか?
さ : 高校の現代文の教科書で栃折久美子[*2]さんの『モロッコ革の本』[*3]を読んで、やりたい!と思っていました。実際にルリユールを習い始めたのは 2000 年、大学を卒業し就職で京都に住むことになり、藤井敬子先生に師事しました。
[*2]ベルギーで製本工芸(ルリユール)を学び、日本で後進の指導にあたった
[*3]ベルギーでの留学体験記。ルリユールの師匠との日々が端正な文章で綴られている
0期は 2018 年 10 月、1期は 2020 年4月にスタートし、最初は1年単位というわけではなかった。2021 年4月から年度制になり、呼び方も ○ 期から ○○ シーズンに変更。
し:デザインの仕事をしていることもあり、製本をやりたくて、自宅近くの製本教室を探すなかで OTA ブックアートを見つけました。そのときは募集していなかったんですが、それをきっかけに太田さんの作品を気にするようになり、TSUTAYA や MUJI の作品展[*4]に行って、面白いなあと思って。そしてたまたま web でチェックしたときに 2022 シーズンの募集が始まったので、申し込みました。
あとでわかったのですが、以前 TOKYO ART BOOK FAIR[*5]で太田さんの作品に感動して「これ自分でつくったんですか?」って声をかけていたんです。
[*4]2022 年に開催された銀座蔦屋書店での個展「太田泰友の標本箱」 と ATELIER MUJI GINZA での企画展「TOKYO MODERNISM 2022」
[*5]「造本見本帳」のユニット名で 2013 年と 2014 年の TOKYO ART BOOK FAIR に出展
ま:2023 シーズンから参加の加藤さんは、太田さんの奥さんと幼馴染みでしたよね。
か: はい、彼女とは幼稚園からの幼馴染みで、ふたりが付き合っているときに、ブックアートというジャンルを初めて知りました。関西に住んでいるので直接太田さんの作品を見る機会はなかったのですが、コロナ禍のとき OB-talk[*6]を観て、楽しそうだなぁと思いました。でも、自分ができるのか不安で決心がつかなかったんです。コロナが落ち着いたころ、太田さんとの面談で、遠方からの参加者もいることやミーティングにはオンラインでも参加できること、ワークショップ[*7]の受講もある程度融通が利くことを知って、ラボに入ることを決めました。
[*6]2020 年に開催していたオンライントーク番組
[*7]ラボでは、製本(毎月)とデザインのワークショップ(不定期)などを開催。製本やデザインのスキルや知識を学ぶことができる。参加は任意
■ラボの活動は思ったより「フリーダム」
ま:実際にラボに入ってみてどうでしたか?
か:最初のミーティングで出てくる用語が半分くらいしかわからなくて……。わたしは製本のことをまったく知らずに入ったので、だいじょうぶかなと思いました。作品づくりを進めていくなかで、何となくイメージができても製本のスキルがないので選択肢も限られ、その中から見つけようとするとどうしても行き詰まって……。
し : スキルがないというのは、わたしも感じていました。わからないから最初はいっぱい製本ワークショップに参加して、そのなかで考えるしかなくて。それでかなり精力的にワークショップに出て、一番最初に覚えた製本方法で作品をつくろうと思ったのだけど、未だにできてない……。
さ: 折り本の形で蛇腹構造を活かした作品ですね[*8]。
[*8]紙を折って蛇腹状にした製本形態の一つ。OTAブックアートの製本ワークショップでは御朱印帳のように紙を貼り合わせて蛇腹状にするつくり方を初期に習うことが多い
0期と1期は、テーマに沿って作品づくりに取り組んだ(0期は「地」、1期は「DISTANCE」)。2022 シーズンはテーマを設けず、各自のテーマで自由に制作。2023 シーズンは「有機/無機」、2024 シーズンは「Numeral」のテーマで制作を進めている。
し:ラボの活動は想像していたものと少し違う部分もありました。カリキュラムがあって、製本技術も学びながら、順序立てて作品制作に取り組んでいくのかなと思っていたのですが、そうではなかった。
製本の技術は、希望者に向けて開催されている製本ワークショップ[*9]で身につけることができるようになっているものの、作品制作については、方法も表現も自身で進めるスタイル。知識の乏しい最初の年(2022 シーズン)はそのフリーダムさがよい面と不安な面もあった。テーマもなかったのでどこから手をつけようかと……。そもそもブックアートについてわかっていなかった。
[*9]製本 WS を受講することで、それぞれが学びたい製本技術を習得できる。講師は本座談会にも参加している佐藤さん
ま:2023 シーズンはテーマがあったのでやりやすかった?
し:テーマということではそうですね、でも技術的にはまだまだ難しく……(笑)。
「有機/無機」というテーマについては、対義する言葉で発想がしやすく、今までなんとなくそのままにしていたことを調べるきっかけになりましたね。そして調べるほど混乱した。面白いテーマだと思いました。
〈 part 2 に続く〉
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