EXHIBITION

【スタッフKの作品紹介】“Book Para-Site” と “Book Para-Site 2―betwixt boards” についてのお話。

建物や展示台など、設置される空間の形に合わせて〈寄生〉するように存在する〈本〉。

ブックアーティスト 太田泰友の “Book Para-Site” シリーズは、これまでの作品を観て「なるほど、これがブックアートか。」と解り始めていた人たちに、「ちょっと待って、これもブックアートなの!?」と言わせるような、挑戦的な作品だと言えるでしょう。本日はこの “Book Para-Site” シリーズについて、OTAブックアートのスタッフKが、ご紹介してみたいと思います!

シリーズのはじまりは、東京・八重洲のビル街に突如現れた巨大な本。大きな表紙を見上げると、本のタイトルは「建築的なもの」と記されています。
〈本〉と〈建築〉のよく似た関係性を考え、それらの境界線になっていると感じる〈スケール感〉に迫るために、この “Book Para-Site” は制作されました。

本と建築は似ている。本にも「扉」や「柱」と呼ばれるものがあるし、動線を考えながらレイアウトを作り込んでいく点もよく似ている。
人間よりも小さく、手で持つことができるのが本で、人間よりも大きく、身体として入ることができるのが建築だ。
大きさは異なるが、共に宇宙だ。

太田 泰友

この作品は、展示空間である建物の形に合わせてピッタリと〈寄生〉するように存在し、上記のコンセプトで太田が述べているように、鑑賞者は本と建築のスケールを行き来しながら、その新たな関係性を楽しむことが出来ます。

作品づくりのプロセスは、トラックを走らせて大量の木材を買うことからはじまり、アトリエにはビスを打ち込む音が鳴り響く日々。私、スタッフK はアシスタントを務めながら「あれ? 今って、ブックアート作ってるんだよね? この人、ブックアーティストだよね? 大工さんじゃないよね?」と何度も自問自答。制作の現場でも、本と建築のスケールを行き来していました。

そして、この作品を語る上では欠かせない大きな起点となったのが、ウィリアム・モリスの言葉です。その文章は、「理想の書物」という本の中に書かれています。

〈芸術〉の最も重要な産物でありかつ最も望まれるべきものは何かと問われたならば、私は〈美しい家〉と答えよう。さらに、その次に重要な産物、その次に望まれるべきものは何かと問われたならば、〈美しい書物〉と答えよう。

「理想の書物」(ちくま学芸文庫) 著:ウィリアム・モリス、翻訳:川端 康雄

太田が大学生の頃に出会い、〈これからの本〉〈自分なりの本〉を考えるキッカケになったこの文章は、 作品の小口の部分にもしっかりと刻まれています。ここで引用されているウィリアム・モリスの一節は、太田の制作活動の原点になっている言葉であり、 “Book Para-Site” は、まさに太田の本に対する哲学を具現化させた象徴的な作品。実際に作品の前に立つと「これは建築なのか? それとも本なのか? 」と問われているような感覚があります。

夜にはライトアップされ、小口のページの隙間から光がこぼれて、本の宇宙を想像させられるので、私 スタッフKは、どちらかを選べと言われると夜の表情の方がお気に入りです! でもやっぱり昼間の明るい時間帯に見る真っ赤な表紙も美しい。 いや、とはいえ光を放つ夜の姿は幻想的だし……、という感じで昼夜で異なる魅力を演出するのも、初めての試みで見応えがありました。

そして、巨大で真っ赤な本 “Book Para-Site” に続いて制作されたのが、真っ白な展示台に〈寄生〉した真っ白な本。タイトルは “Book Para-Site 2―betwixt boards” です。この作品にも同様に、モリスの言葉が引用されています。その言葉は、上記でご紹介した文章のすぐ後に続いている一文です。

当面、〈家〉は脇に置き、〈書物〉に関して、それを物質的な財産としていとおしみ、かきいだくのは、表紙と裏表紙の間に潜んでいる思想に関心をもつ者にとってごく自然なことだと言っておこう。

「理想の書物」(ちくま学芸文庫) 著:ウィリアム・モリス、翻訳:川端 康雄

「物質的な財産としていとおしみ」という箇所は太田の興味とも非常に共通しているところがあります。また、「表紙と裏表紙の中に潜んでいる…」とモリスが述べているように、表紙と裏表紙に挟まれた本の世界〈betwixt boards〉には、無数の〈出会い〉が潜んでいます。たくさんのページがある中で、太田がこのモリスの文章と出会ったということは、この作品を発表した展覧会の〈出会い〉というテーマにも繋がっています。

この作品は、表紙にエンボスされたタイトルが途中で切れているのを見ると分かるように、大きな本が出来上がっていっている途中過程のような、あるいは大きな本を分断したような未完成なイメージで作られています。

そのため、小口の白い部分はふわふわした質感が特徴のパイル地の用紙が使用され、紙の断面を表現しています。よく見ると本来は白い革で包み込まれているはずの表紙・裏表紙の板も、小口側だけはぶった切られたような、断面の質感に変化しています。実物を観る機会がありましたら、ぜひチェックしてみて下さい。
ひときわ目を引く、ネイビーのページに刻まれたモリスの言葉は、顔料のマットなホワイトで箔押しされています。

天と呼ばれる、本の上面の部分は「天金」という、上方の小口のみに金箔をつけて装飾する製本技術を再現しています。そして、本文の背の天地に取り付けて補強するための「花布(はなぎれ)」というパーツも、表紙に使われている白い革で編まれています。その他、表紙・裏表紙の板と背との間にある「溝」や、本の背に見られるボコッとした「背バンド」と呼ばれるパーツも、しっかりと作り込まれています。

前作の “Book Para-Site” は、八重洲ビルのギャラリースペースの空間にピッタリとはめ込まれたように〈寄生〉させていましたが、この作品は、展覧会で用意されていた既存の〈展示台〉がベースとなっています。建物というよりは家具的なスケール感で、この展示台の上にピッタリと〈寄生〉する本を制作し、寄生が進行して本の部分が更に大きくなっていく姿をも想像させる形に設計しています。

今回ご紹介した2作品に共通する、〈Para-Site = 寄生〉という概念は、最新作にも関連してくる重要な考え方です。拙い文章ではありますが、作品をより深く楽しんでいただくヒントになれば幸いです。最新作やこれまでの作品についても、またこちらのブログで少しずつご紹介していきたいと思いますので、どうぞお楽しみに!

作品に関する詳細記事は、こちらをご覧ください。
☞ 東京・八重洲に巨大な本が出現!太田泰友 “Book Para-Site” 公開
☞ 【映像】太田泰友の作品 “Book Para-Site” の動画を公開しました。
「Brillia Culture Spice」オープニングイベントで新作 “Book Para-Site 2—betwixt boards” を発表しました。

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