コプティック、何やら可愛らしい響きをもつこの製本方法が今回のOTAブックアート製本ワークショップのお題です。2020年の最後を締めくくるのは、これまでこのブログでも紹介してきた通年のプログラムとは違い、一般の方からも参加のご応募をいただけるワークショップでした。
コプトとは古代エジプトのキリスト教徒のこと。そのコプトの人々が行なっていた製本方法がコプティック製本・コプト綴じなどと呼ばれ、最も初期の冊子形態の綴じ方と言われています。
背の部分がオープンで折丁と綴じ糸が見えており、背を糊で固めないため軽やかに360度ページが開くのが特徴です。チャームポイントは、表紙に出てくる糸や、背の部分の綴じ糸が鎖状に編み込まれているように見えるところ。今回のワークショップでも、アトリエにある製本クロスから参加者が好みの色を選び、見返し用紙と綴じ糸の色の組み合わせでカラフルな仕上がりになりました。
ワークショップの山場はやはり綴じ方。基本は折丁同士を糸で繋げていくリンクステッチですが、表紙ボードと折丁を綴じ合わせる部分が特徴的です。複雑な糸の運びが見えやすいように、少し大きな見本を使ったりしながら綴じ方の説明をしていきました。
綴じる時は固定されていない表紙ボードを押さえつつ、糸の運びを間違えないように気をつけながら、一方で糸が弛まないようにも気を配らなければいけません。参加者の皆さんは、きっと糸の絡まりと同じように頭がこんがらがりそうになっていたのではないかと思います。四苦八苦しながらも、皆さん無事に完成しました。
現代のコプティック製本と呼ばれているものはコプトの人々が作っていた本来のものとは変わってきていますし、今回のワークショップで作ったものも、時間の関係で花布(はなぎれ)は省略しています。インターネットで検索すれば多くのコプト綴じの動画が出てきますが、その作り方は一つではありません。それだけ人々が工夫をしてきた証拠だとも言えるのではないでしょうか。
手製本のものとは少し作りや趣は異なりますが、工業製本でもコデックス装と言われる背の部分が覆われておらず綴じ糸が見える製本方法があり、ここ数年書店に並ぶ本の中でも見かけるようになりました。やはり、見た目の新鮮さから本のデザインに取り入れられているのでしょう。
古い製本方法が少しずつ改良され、形を変えつつ伝えられて今に至る、そしてそれが改めて面白く感じられる。古代コプトの人々が現代のコプト綴じを見たらなんて言うだろう、今から1000年後にはどんな形で残るのだろうか、あるいはもはや忘れ去られてしまっているのか…そんなことに思いを馳せた2020年の綴じ納めとなりました。
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