アトリエ便り

【スタッフ佐藤の Binding Road】#21 ブックトレイル 「造本研究」

4月からOTAブックアートのブックラボ 2023期 が始まりました。

製本ワークショップも再始動、昨年も開催した造本研究からスタートです。今回は、製本の歴史に触れながら、歴史的な製本を再現した見本を見たり、かつては本に使われていたパピルスや羊皮紙といった素材も実物を手にとってみたりしました。先人が踏み分けて作った製本の道いわばブックトレイルを辿る、気分は机上の小旅行です。

その後、いろいろな作りの作品を見ていきながら、自由な意見交換をしていきました。経験も立場も違うけれど、本が好き、本を作りたいという思いを持って集まってきたメンバーなので、自分が全く気付かなかった角度からの意見が出てきたりするのが面白いところです。経験が少ないからこそ出てくる新鮮な疑問もあり、お互いに良い刺激を与え合う場となったのではないでしょうか。

最近気になっていた本の作りについて、今回新たに造本見本を作ってみました。

作り自体はシンプルな一折中綴じですが、背は一枚ずつしっかり折り目がついており、前小口も化粧裁ちをしていません。そのため、背も前小口も、緩やかなカーブを描く鋭角になっており、前小口は少しずつずれた各ページの重なりがきれいに見えます。

一折中綴じは、折丁の背は複数枚の紙を重ねて折った時の自然な丸みを持たせ、前小口は化粧裁ちをするというのがセオリーですが、そこをあえて破ることで目に新しい形となっています。この作りは最近ではこだわりを持って作られた雑誌などでも見かけますし、4月まで印刷博物館 P&Pギャラリーで開催されていた「世界のブックデザイン 2021-22」展でも2冊ほど展示されていました。


新しい作りかと思いきや、最近手に入れた萩原朔太郎の『ソライロノハナ』も、背は丸いものの前小口がずれた状態になっていました。入手したのはもちろん復刻版ですが、元は朔太郎の手製の私家版で、紙をまとめて冊子を作り、製作当時は未発表だった短歌が自筆で書き留められています。当時思いを寄せていた女性への贈り物として作られたのではないかとも言われており、個性的な文字とともに素朴な造本が愛らしい雰囲気を醸しています。

朔太郎が前小口を裁ち落とさなかったのは、技術や道具の問題でできなかったのか、はたまたその形に面白みを感じたからか、正確なことは分かりません。本の最初には、「この歌集を編むに当りて友人倉田健次氏専ら表裝その他の勞をとられたることを深く感謝す」とあります。友人とどんなやり取りをして製本をしたのかと想像が膨らみます。綴じ糸に絡ませたリボンなど、この小さな本に対する朔太郎の愛着を感じさせる一冊です。

オリジナルの画像をインターネットで探していて気付いたのですが、2月まで駒場の日本近代文学館で展示されていたようです。オリジナルもいつか見てみたいです!

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